ドイツにおけるEフューエルとPower-to-Xをめぐる最新動向

ドイツでこのところ、「Eフューエル(E-Fuels)」と呼ばれる合成燃料をめぐる動きが活発化している。“E“は、ドイツ語の「Erneuerbarer Strom=再生可能エネルギーで発電した電気」の頭文字である。Eフューエルは通常、再生可能エネルギーで発電した電力、水素、そして二酸化炭素(CO2)を使って製造されるためである。

ここでもう一つ、“Power-to-X”と言うコンセプトにも簡単に触れておく。ドイツエネルギー機関(dena)の解説によると、同コンセプトは、

  • Power-to-Gas(水素及び合成メタン)
  • Power-to-Liquid(合成ディーゼル、合成ガソリン、合成ケロシン)
  • Power to Chemicals(メタノール、プロピレン、アンモニアなどの化学物質)

を包括する概念である。Power-to-Xテクノロジーでは、まず、再生可能エネルギーで発電した電力を使って水を電気分解して水素を取り出す。こうして得られた水素は、直接利用したり貯蔵したりすることも可能であるが、これにCO2や窒素(N2)などのガスを投入することによって、さらに加工することもできる。Eフューエルは、このPower-to-Xテクノロジーを使って製造された燃料全般のことである。

 

Eフューエルの長所と短所

現在、ドイツではEフューエルのポテンシャルについては賛否両論がある(環境保護団体や緑の党は反対派)。最大の課題はコストである。エネルギー変換効率の低さ(以下の注を参照)、製造プロセスの複雑さに加え、ただでさえ電力価格が高いドイツでは、Eフューエルの価格はまだかなり高い。

注:Agora Verkehrswende(交通システムの転換に取り組むためのドイツのシンクタンク、ウェブサイト:https://www.agora-verkehrswende.de/en/)がまとめた2017年の研究報告結果によると、100km走行に必要な電力消費量は、純粋な電気自動車(EV)では15kWh、また水素自動車では31kWhであるのに対し、Eフューエルを動力源とするディーゼル車やガソリン車では103kWhにも及ぶ

一方、同燃料の長所としては、まず貯蔵が可能であり、輸送コストが安いことが挙げられる。また、EVの普及には、車両の買い替えのみならず、充電ポイントの設置が不可欠であるのに対して、Eフューエルでは車両、ガソリンスタンド、タンクローリーといった既存のハードをそのまま継続使用することができる。さらに、特にドイツ自動車産業界にとっては、同燃料によって内燃機関自動車が化石燃料に依存しなくて済むようになれば、「テクノロジー面での現在の優勢」を今後も保持することができるかもしれないと言う意味で、これは金の卵と言えよう。

 

連邦政府は慎重な構え

いずれにせよ、現在、ドイツ国内ではまだ、Eフューエルの量産体制は整っておらず、これを実際に自動車に充填することはできない。そして、連邦政府による交通部門を対象とした気候保全政策の焦点はエレクトロモビリティに置かれており、Eフューエルはこれまで、あくまでも下位のテーマであった。現在も、政府は同燃料に対する慎重な構えを崩してはいないが、最近、以下のような動きも確認されている。

  • ドイツの『シュピーゲル(Spiegel)』誌(2019年6月24日付け)は、連邦議会内のキリスト教民主同盟(CDU)・.同社会同盟(CSU)会派が、Eフューエルを推す内容のポジションペーパーをまとめたことを報じている。
  • 連邦環境省(BMU)は2019年7月10日、「BMU行動計画PtX „Power-to-X“」を発表した。原文(ドイツ語、5ページ)は以下のURLで閲覧可能である。

https://www.bmu.de/fileadmin/Daten_BMU/Download_PDF/Klimaschutzinitiative/iki_aktionsprogramm_ptx_bf.pdf

 

産業界の動向

また、2019年7月14日付けの独『ハンデルスブラット(Handelsblatt)』紙は、このところEフューエルを支持する声が高まっており、特に自動車やエネルギー業界が同燃料の開発に力を入れ始めていると報じている。同紙が挙げている、新規Power-to-X関連プロジェクトの例は以下の通り。

  • BPと電力会社Uniperが、Power-to-Xコンプレックスを伴うプロジェクトを推進中。
  • Shellはこの6月末、ドイツ・ラインランド州における電気分解用施設に着工した。
  • Lufthansaは、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州にある精製会社Heide社と共同で、CO2ニュートラルのケロシンの実証プロジェクトを実施中。

複数のエネルギー供給事業者と石油会社、そしてAudiで構成されているアライアンスがこの4月、2025年までにEフューエルを市場投入する計画を策定した。