ドイツ連立与党、2030年までの気候変動対策パッケージで合意――エレクトロモビリティ関連施策の概要

ドイツ連立与党は2019年9月20日、総額540億ユーロ(約6.4兆円)を超える規模の新しい気候変動対策パッケージ(Klimaschutzpaket)で合意した。同日発表された、『2030年気候変動対策プログラムの基本事項』(ドイツ語、22ページ、原文は以下のURL参照)には、2030年までに温室効果ガスを1990年比で55%削減するという目標の達成に向けた、全65項目にわたる具体的な施策が掲げられている。本記事では、特に運輸部門での取り組みに焦点を絞ってその概要をまとめる。

https://www.bundesregierung.de/resource/blob/997532/1673502/768b67ba939c098c994b71c0b7d6e636/2019-09-20-klimaschutzprogramm-data.pdf?download=1

 

  • 運輸・暖房部門にCO2排出量取引を導入

本パッケージのハイライトは、運輸部門と暖房部門(注:両部門はEU排出権取引の対象外)を対象とする二酸化炭素取引価格(CO2-Bepreisung)の導入である(注:連立与党の一角を担うドイツ社会民主党(SPD)はCO2課税方式を提案していた)。その価格は、2021年は1トン当たり10ユーロ、2022年は20ユーロ、その後は2025年まで毎年5ユーロずつ引き上げる。メディアが報じているところによると、ガソリンおよびディーゼルのリッター価格は、同措置に伴い、2021年に約3セント(約3.5円)、そして2026年までにはさらに9~15セント増加することになる。

 

  • 運輸部門における施策

運輸部門では、2030年までに年間CO2排出量を9500万~9800万トンに削減することを目指す(1990年比で40~42%削減に相当)。以下の15項目が運輸部門を対象とする施策である(注:カッコ内の数字は、上記『2030年気候変動対策プログラムの基本事項』に記されている通し番号)。

  1. (14)エレクトロモビリティ向け充電インフラの拡充
  2. (15)電動乗用車への買い替え促進
  3. (16)燃料構成と改良型バイオ燃料開発
  4. (17)公共近距離旅客輸送(ÖPNV)の魅力度の向上
  5. (18)自動車専用道路の拡張
  6. (19)鉄道旅客輸送の魅力度の向上
  7. (20)鉄道貨物輸送の強化
  8. (21)ドイツ鉄道(DB)への増資
  9. (22)低排出トラックの普及促進
  10. (23)内陸水路交通の近代化と港湾における陸上電力利用
  11. (24)電力ベース燃料の開発
  12. (25)モビリティのデジタル化
  13. (26)自動車税制改革:CO2排出量ベースの課税を徹底
  14. (27)鉄道利用を安く、飛行機利用を高く
  15. (28)ÖPNV年間チケット導入に関するモデルプロジェクト支援

 

  • エレクトロモビリティ関連施策のポイント
    • エレクトロモビリティ向け充電インフラの拡充
    • 2030年までに国内に100万台の充電器(充電ポイント)を設置する。
    • 年内に「充電インフラ基本計画(Masterplan Ladesäureninfrastruktur)」を策定する。
    • 国内の全ガソリンスタンドに充電器設置を義務付ける。
    • 集合住宅の駐車場における充電器設置を容易にするために、「住居所有権法(WEG:Wohnungseigentumsgesetz)」を改正する。

 

  • 電動乗用車への買い替え促進
    • 2030年までに電動車の登録台数を700万~1000万台に引き上げることを目指す。
    • 電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド自動車(PHEV)の社用車の私用に対する税(Dienstwagensteuer)優遇措置(税込み新車販売価格の5%)を2030年まで延長する。さらに、新車販売価格が4万ユーロ(約470万円)以下のEVについては、税率を0.25%に引き下げる。
    • EV向け自動車税(Kraftfahrzeugsteuer)免除を2025年12月31日まで延長する。ただし、10年間免税措置の適用は2030年12月31日までとする。
    • 環境ボーナス(Umweltbonus、EV/PHEV/燃料電池自動車購入向けの政府奨励金)の支給を2021年以降も継続する。なお、新車販売価格が4万ユーロ以下のモデルに対しては、支給額を増額する(注:ただし、その具体的な金額には言及されていない)

 

最後に、本パッケージでは「電動車割当率の導入」及び「ディーゼル車向け優遇措置の縮小」については一切触れられていないことを指摘しておく。要するに、原則は「強制」ではなく「自由意志」であり、提示されているのは(エレクトロモビリティ向けの)「アメ」だけで「ムチ」はない。