2022年11月13日(No. 2022-11063)
国・地域:欧州・ロシア, 欧州連合(EU)
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EU乗用車と小型商用車のCO2排出基準規則案で欧州議会とEU理事会が暫定合意

欧州委員会が2021年7月に気候変動対策パッケージFit for 55の一部として発表した「乗用車と小型商用車のCO2排出基準に関する規則(EU)2019/631の改正案」について、欧州議会とEU理事会の代表が交渉を続け、2022年10月27日に妥協案をまとめた。今後、この暫定合意を両機関が正式に承認すると、本法案は成立する。妥協案の最重要部分は「2035年までに新車のCO2排出量を2021年基準比で100%削減する」、すなわち「事実上、内燃機関(ICE)搭載車の2035年販売終了」という目標の設定であるが、この点については両機関とも今年6月に出した各自の修正案で支持を表明し、既定路線となっていた。むしろ今回は、目標の見直し条項やカーボンニュートラル(CN)燃料のみで走る自動車を許容する可能性が盛り込まれた点が注目される。

暫定合意の中で、特筆に値するのは次のような点である。

  • 目標の見直し期限が2026年に設定され、それまでに技術開発(プラグインハイブリッド技術を含む)や公正な移行の観点から枠組み条件に変化が生じた場合には、排出基準の変更が可能とされたこと。
  • CN燃料(e-fuelなど)のみで走行する自動車に関するテキストが含まれたこと。
  • 「欧州委員会は2025年までに自動車のライフサイクル全体のCO2排出量の測定やデータ報告に関する方法論を策定する」旨が規定されたこと。

暫定合意の概要(EU諸機関のプレスリリースなどをもとにEnviX作成)

  項目 暫定合意内容 備考
(1) 新車CO2排出量削減目標(注1)
  • 2030年目標:乗用車は2021年基準比で55%、小型商用車は50%削減
  • 2035年目標:乗用車と小型商用車の両方で、2021年基準比で100%削減
欧州委員会が提出した原案のまま。
(2) ZLEV(注2)向けインセンティブ(排出基準の緩和)メカニズム ZLEVベンチマーク値(年間販売台数に占めるZLEVの割合)を乗用車で25%、小型商用車で17%に変更した上で、2030年まで継続する。 原案は、同メカニズムの廃止を提案。
(3) CN燃料 欧州委員会は、利害関係者との協議の上で、EU法に準拠してCN燃料のみで走行する自動車を、2035年以降、フリートCO2排出基準の適用範囲外で、かつEUの気候中立目標に従って登録することに関する提案を行う予定である(注3)。 EU理事会が2022年6月の修正案(全般的方針:GA)の中で、規則の前文(9a)として追加することを提案していた内容。
(4) 見直し条項 欧州委員会は2026年に、100%排出削減目標の達成に向けた進捗状況と、これらの目標を見直す必要性を評価する。その際、プラグインハイブリッド技術を含む技術開発や、ゼロエミッションに向けた実行可能かつ社会的に公正な移行の重要性を考慮する。 EU理事会が2022年6月のGAで提案していた内容。見直し時期については、欧州委員会原案は2028年、欧州議会修正案は2027年を提案していた。
(5) エコ・イノベーション 欧州委員会が認定する「エコ・イノベーション技術」を装備する新車に対してメーカーが受け取ることができるCO2排出クレジットの上限を、2030年から2034年までの期間、年間最大4g/kmに引き下げる。 現行規則の下でのクレジット上限は、年間7g/km。
(6) ライフサイクル全体のCO2排出 欧州委員会は2025年までに、新しい乗用車と小型商用車のライフサイクル全体のCO2排出量の評価とデータ報告のためのEU共通の方法論を策定し、必要に応じて法案を提出するものとする。 欧州議会が2022年6月の修正案の中で提案した内容。策定期限については、欧州議会は2023年末を提案していた。
(7) 少量製造者(注4)向け特例制度 2035年末まで継続。 原案は、2030年以降廃止を提案。

(注1) CO2排出規制の基本的な構造は、現行規則(EU)2019/631と変わらない。製造者は、引き続きICE車を市場に投入することができるが、当該年に新規登録された自社モデルの平均CO2排出量が所定の製造者別年間排出目標値(specific annual emissions target)を超過した場合、登録車両一台につき1g/km超過あたり95ユーロの罰金を支払わなければならない。EU理事会は、「このため、(新規制の下では)結果的に、ゼロエミッション車の方が化石燃料で走る車よりも安くなる」としている。
(注2) ZLEV(Zero and Low Emission Vehicle)はCO2排出量が0~50g/kmまでの自動車。
(注3) ドイツの報道によると、本テキストは規則の本文ではなく「前文」に盛り込まれることになっており、欧州委員会に対する拘束力を持たない。また、本テキストの解釈も一定ではなく、特に「フリートCO2排出基準の適用範囲外」が具体的に何を意味するのかは明確にされていない。
(注4) 年間新規登録台数が、乗用車は1万台未満、小型商用車は2万2000台未満の製造者。

なおEU理事会は「暫定合意されたテキストは近日中に公開予定」と予告しているが、同テキストは2022年11月9日の時点ではまだ公開されていない。

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