欧州委員会のフランス・ティーマーマンス(Frans Timmermans)執行副委員長(兼グリーンディール担当)による「欧州の自動車産業は過去ではなく未来に目を向けなければならない」と題する寄稿文が、EUの政策協議を専門とするオンラインメディアEuractiv(2022年12月19日)に掲載された。EUでは2022年10月27日、EU理事会と欧州議会が「乗用車と小型商用車のCO2排出基準に関する規則(EU)2019/631の改正案」で暫定合意に達し、すべての新車(乗用車と小型商用車)の2035年ゼロエミッション化が確定した(ただし成立にはまだ両機関による正式な承認が必要である)。ティーマーマンス執行副委員長の寄稿文は、終始一貫して、欧州の自動車産業がこの目標に焦点を定め、ぶれることなく進んでいくことの重要性を説いている。また、この目標を達成するための手段として、EUが電動化に集中する方針であることが読み取れる。特に興味深い部分を以下に抜き出す。
2035年新車ゼロエミッション化について
- 「自動車の平均車齢を考慮すると、2035年を新車ゼロエミッション化の期限とするのは適切である。欧州連合が2050年気候中立目標(温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロとする)を法制化している以上(欧州気候法(EU)2021/1119)、2050年までに道路を走るほぼすべての自動車をゼロエミッションにする必要がある。」
- 「同期限は、欧州議会および27の加盟国によって合意され、(中略)自動車業界の多くは、確実性と方向性を示すものとしてこれを歓迎している。」
電動化に集中することの効果について
- 「経済的な機会がそこにあるのに、私たちが疑念の種を蒔いたり、変革そのものについて別の選択をするべきだったと考えたりすれば、産業界は変革のための計画を立てることができない。抜け道を残したり、裏口を提案したりすることは、欧州産業とそこで働く人々を支援することにはならない。」
EnviX注:テキストからは、「抜け道(loopholes)」や「裏口(backdoors)」が、例えばカーボンニュートラル燃料(CN燃料)のことを指しているのかどうかは定かではない。ちなみにティーマーマンス執行副委員長は今年6月、「今のところeフューエルが現実的な解決策であるとは思えないが、将来的にメーカーがそれを反証できるのであれば、我々はオープンであるつもりだ」と発言している。
- 「自動車メーカーが新しいEVモデル(electric models)の市場投入に集中することが可能になればなるほど、テクノロジーの普及は加速し、規模が拡大すればするほど、その価格は下がる。」
- 「『この変革が、内燃機関用コンポーネントや燃料部門における雇用に深刻な影響を及ぼす』という問題に対する私たちの解決策は、電動化、電池、充電、ソフトウェアの分野でもっと多くの雇用を確保することにあるべきだ。」
2026年見直しについて
- 「2026年には、2035年ゼロエミッション化目標に向けた進捗状況を見直す(review)ことになっている。見直し条項はどのEU法にも必ず設けられているものである。そして、この見直しは、2035年向けの目標を達成したいかどうかではなく、いかにして達成するかについて行われるものである。」
寄稿文は、「もし私たちがずっとバックミラーを見つめ続けているならば、他の大陸に追い越されるだけだろう」という比喩を使って、内燃機関の歴史を誇る欧州の自動車産業に、過去ではなく未来に目を向けることを促している。そして、「クリーンでアフォーダブルな欧州自動車産業の構築に向けて、一丸となって取り組もう―—欧州と世界のために」という呼び掛けで締めくくられている。
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