欧州連合(EU)域内のEV製造のカギを握るスタートアップとして、2016年の設立以来、注目と期待を集めてきたスウェーデンの電池セルメーカーNorthvolt (本社:ストックホルム)が、2024年9月に立て続けに戦略変更を発表している。同社はその背景を、「運営費の合理化」、「Northvolt Ett(注)へのリソース集約」、「コスト削減」、「グローバル電池産業における地位を確保するための戦略的パートナーシップの模索」といった言葉で説明している。同社は、2022年末にスウェーデン北部のスケレフテオ(Skellefteå)の生産拠点でセル製造を開始したが、現地報道によると、それから1年半が経過した現在も歩留まりの悪さを解消することができず、このために生産遅延が生じている。これを原因として、今年6月にはドイツBMWがNorthvoltに対する20億ドル規模の発注を取り消した。また、欧州におけるEV需要の減退も、同社の戦略変更に間接的な影響を及ぼしていると見られている。なおNorthvoltは、今秋にも戦略のさらなるアップデートを公表するとしている。
注:Northvolt Ettとは、同社の主要生産拠点であるスケレフテオにおける、100%再生可能エネルギー利用によるリチウムイオン電池セルの大規模生産施設(ギガファクトリー)のこと。
9月9日に発表された措置
- スケレフテオ工場における正極材生産の一時停止
- 国内ボルレンゲ(Borlänge)工場内のKvarnsvedenサイトの売却
- ポーランドのグダニスク(Gdańsk)にある蓄電システム工場の投資家との交渉開始
- 子会社であるキューバーグ(Cuberg)社(本社:米国カリフォルニア州)とそのリチウム金属技術を、スウェーデンのヴェステロース(Västerås)拠点にある研究開発・工業化キャンパス「Northvolt Labs」に統合
9月23日に発表された措置
上記の措置は、いずれも同社の周辺事業に関わるものであり、基幹事業である電池セル製造への影響はないと当時は考えられていた。しかし、同社は2週間後の9月23日、さらに以下の措置を発表した。
- 国内3拠点で合計1600名の人員削減を実施する。内訳は以下のとおり:
- スケレフテオ【Northvolt Ett、正極材工場(生産停止中)】:1000名
- ヴェステロース【Northvolt Labsなど】:400名
- ストックホルム【管理部門】:200名
ちなみに、同社の現在の世界における従業員数は約7000名。
- Northvolt Ettの第2フェーズとして計画されていた生産能力拡張(年間30GWh追加)を棚上げする。初期フェーズ(年間16GWh)の立ち上げにリソースを集中させ、顧客へのコミットメントを優先するため。
なお、同社がドイツとカナダで進めているセル工場建設計画に関するアップデートは今のところ発表されていない。ドイツ・ハイデ(Heide)では、2028年の試運転開始(予定)に向けて、すでに2024年3月に新工場の起工式が行われている。しかし、現地報道は、「この秋にNorthvoltが発表予定の戦略アップデートには、ハイデ工場に関する何らかのニュースも含まれるはずである」と報じている。
備考:その他の電池セルメーカーによる最近の計画調整
- メルセデス・ベンツとTotalEnergiesの合弁会社であるAutomotive Cells Company (ACC)は2024年6月、セル化学の切り替えを理由に、独カイザースラウテルンおよび伊テルモリのセル工場の建設の一時中断を発表。
- 中国の電池メーカーSVOLTは2024年初夏、2022年9月に発表した独ブランデンブルク州・ラウフハマー(Lauchhammer)における工場建設の中止を発表。独ザールランド州における工場建設にも遅れ。
- フォードがLG Energy SolutionおよびトルコのKoç Holdingと共に計画していたセル工場建設計画は、すでに長い間、保留されている。
関連URL
- Northvolt 2024年9月9日プレスリリース
https://northvolt.com/articles/northvolt-strategic-review/
Northvolt 2024年9月23日プレスリリース
https://northvolt.com/articles/northvolt-rescopes-operations/