EUでは、2030年までの新しい乗用車及び小型商用車の二酸化炭素(CO2)排出規制に関する規則の成立が間近に迫っている。2019年3月27日には欧州議会がその法案テキストを最終承認し、残すはEU理事会の最終承認のみという段階に入っている。
そうした中、欧州の大手NGOであるTransport & Environment (T&E)は同じく3月27日、同規則案に含まれる弱点を指摘し、これがメーカーによる「フェイク(偽の)EV」販売強化の引き金となる可能性があると警告した。
ここで「フェイクEV」と称されているのは、往々にして大型SUVモデルとして販売されているプラグインハイブリッド車(PHEV)のことである(T&Eはこれを、正規PHEV(proper plug-in hybrids)とは区別して使っている)。
T&Eによると、フェイクEVでは、電気走行航続距離が非常に短いため、ユーザーが実際に電気モードで走行することはめったになく、その結果、リアルワールドCO2排出量はディーゼル車やガソリン車と同等、あるいはそれ以上のレベルになっている(T&Eデータでは、通常100g/km以上)。
新しい規則では、ゼロエミッション自動車(ZEV)と低排出自動車(LEV、CO2排出量50g/km以下)が合わせて「ZELV」と定義されており、販売台数に占めるZLEVの割合が2025年に15%、そして2030年に35%を超えた自動車メーカーには、製造者別排出目標値(Specific emissions targets)を最大で5%引き下げるというインセンティブが与えられる。
つまり、メーカーがこのZLEV販売比率を最小コストで達成するには、電気自動車(BEV)でなくても、フェイクEVの販売台数を増やせば済む(T&Eの分析によると、メーカーは2025年以降に毎年およそ170万台、そして2030年以降は毎年およそ400万台のPHEVを販売すれば、受給条件を満たす)。
その結果、期待されるようなCO2排出削減効果は得られない、というのがT&Eが警告する内容である。また、T&Eは、メーカーがこの抜け穴を利用するのを阻止するには、加盟国政府が、国内で実施するインセンティブの対象を、「ZEV」と「航続距離の長いPHEV」に限定する必要があると主張している。
この他にも、同法案の弱点として、以下の点が挙げられている。
- 自動車メーカーは、NEDC(新欧州ドライビングサイクル)からWLTP(乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法)への移行を利用して、自分たちに有利になるように(2021年ベースラインを引き下げるために)CO2排出量を水増ししている。
- さらに、メーカーには、国内EV市場が(相対的に)まだ発展していないとされる14加盟国を対象とする、ダブルカウントクレジットを巧みに利用する道も残されている。例えば、ポーランドではEV 1台を販売すると85台としてカウントされるので、メーカーは新車EVをポーランドで登録し、その翌月にドイツで新車としてこれらのEVを再販することでクレジットを稼ぐことができる。このからくりを使えば、CO2排出量が高いが実入りの多い、ガソリン/ディーゼルエンジン搭載のSUVモデルを並行して販売することも可能になる。
関連文書
Transport & Environment 2019年3月27日発行プレスリリース(英語):