欧州委員会、ELV指令の評価結果を公表――使用材料の変化やEVの増加なども考慮

2021年3月15日付EU官報に「使用済み自動車(ELV)指令2000/53/ECの評価結果」が掲載された。

  • 原文(Evaluation、SWD (2021) 60)、英語、113ページ):

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A52021SC0060&qid=1616165533406

 

背景

この評価は、欧州委員会が2018年10月に開始したイニシアチブである。20年前に制定されて以来まだ一度も実質的な改正が行われていないELV指令(以下、「本指令」という)を対象に、EUの「より良い規制の原則」(Better Regulation principles)に従って、有効性、効率性、適合性、一貫性、EU付加価値の5つの主要基準に基づく評価が行われた。その際には、電気電子コンポーネントや軽量素材(プラスチック、炭素繊維、繊維強化プラスチックなど)の使用増加や、市販車の種類の変化(電気自動車、ハイブリッド自動車、SUVの増加)をはじめとする、自動車を取り巻く状況の変化も考慮された。

 

主な結論

  • 有効性(Effectiveness)
  • 当初の目標の多く(特に車両における有害物質の使用禁止、ELV回収拠点の拡大、回収・リサイクル目標の達成)を実現する上で、本指令は有効であった。
  • 一方、年間およそ400万台(登録抹消車両全体の約35%に相当)発生している「行方不明車両」が主要な課題として残っている。
  • 解体・リサイクル容易化設計や再生材料使用を促すための規定が十分ではなく、新車の設計・製造への影響は極めて限定的であった。
  • 車両に含まれる材料やコンポーネントに関する情報の提供と共有を自動車メーカーに義務付ける条項が、修理・解体・リサイクル業者にとっては不十分との批判がある。
  • 「リユース/リカバリー目標」および「リユース/リサイクル目標」については、大半の加盟国が達成済みと報告しているものの、報告方法が統一されていないため、達成状況の比較可能性には疑問が残る。
  • 前項の目標値は車両総重量に基づいて計算されるため、金属廃棄物以外の材料をリサイクルする動機付けになっていない。その結果、ガラス、プラスチック、重量原材料(CRM)の回収・リサイクルが最適化されない。
  • 本指令の「リサイクル」の定義は他のEU法よりも広く、これには埋戻し(backfilling)も含まれる。また、「リユース」の個別目標が設定されていないのも不備である。
  • 効率性(Efficiency)
  • 環境中への汚染物質の流出防止、加盟国における自動車解体・リサイクル業界の整備、そしてELV無料引取りをはじめとする、本指令がもたらした総合的な便益は、その費用を上回ると評価される。
  • 本指令がEU自動車産業の競争力に悪影響を及ぼしているという証拠や主張はない。
  • 本指令の実施に伴う費用配分の問題は、利害関係者の間で意見が分かれている。
  • 本指令に起因する、余計な規制上の負担や費用の存在は証明されていない。
  • 適合性(Relevance)
  • 約4500万台の保有車両が本指令の適用範囲から外れている。例えば二輪車やトラックには、使用済み段階での処理方法を規定する条項は適用されていない。
  • 本指令は、金、銀、パラジウム、タンタル、その他の希土類金属などの有価材料(電気電子部品に含まれ、近年、使用量が増加している)の高度リカバリー/リサイクルの確保には適さない。プラスチックや炭素強化プラスチックについても同様。
  • 一貫性(Coherence)

以下に挙げるEU法規・政策と本指令の間の整合性を確保する必要がある。

  • 欧州グリーンディールや循環型経済行動計画
  • EUの気候変動政策や大気汚染対策
  • 他の廃棄物関連法(特に拡大生産者責任の観点において)
  • 将来のEU電池規則
  • 自動車登録や自動車型式認証に関わるEU法
  • EU付加価値(EU added value)

本指令によるEU付加価値は、ELVに関わる環境要件が調和されたことに加え、同分野でのEUの枠組みが構築されたことにある。この枠組みを通して、自動車部門全体で域内市場が円滑に機能し、域内の競争の歪みが回避された。

 

今後の展開とスケジュール

現在、欧州委員会ではELV指令の改正検討作業を進めており、その結果は2022年に法案の形でまとめられる可能性が高い。今回の評価で示された各要素は、同作業に反映される予定である。