2021年7月14日、欧州委員会は自身の気候目標達成に向けた13の措置から成る「Fit for 55パッケージ」を発表し、その一環として、2020年1月に改訂版が発効したばかりとなる自動車および小型商用車からの排出基準規則 (EU) 2019/631の見直しを提案した。同見直しの下で、さらなる排出削減目標の引き上げを提案しており、特に2035年以降は全ての新車販売をゼロ排出車とする提案は議論の焦点となっている。
運輸部門の温室効果ガス排出量は、現在、EUの総排出量の4分の1を占めており、排出量は依然として増加傾向にある。また、2050年気候中立目標を達成するためには、運輸部門の排出量を90%削減する必要があり、Fit for 55パッケージの下には、自動車・商用車からの排出基準の厳格化をはじめ、道路運輸燃料を対象とした新EU排出権取引制度(ETS)の導入、充電・補充インフラの拡大に向けた代替燃料インフラ指令の見直し、再生可能エネルギー指令の見直しの下での再生可能燃料の促進などが盛り込まれた。
特に、乗用車・小型商用車からの排出基準規則の見直しを巡っては、欧州委員会は、以下のような基準値の大幅な引き上げを提案した(すべて2021年(95g/km)比):
- 乗用車 :2030年目標-37.5%(現行)→-55%
2035年目標-100%
- 小型商用車:2030年目標-31%(現行)→-50%
2035年目標-100%
また、現行規制の下では、ゼロ排出車の導入を促進するため、一定のゼロ・低排出車(ZLEV)の販売比率目標値を達成したメーカーに対して、排出基準値の5%までを緩和するといったインセンティブ制度が導入されている。しかし、上記のような排出基準の厳格化に伴いゼロ排出車の普及加速が見込まれるため、同インセンティブは2030年で打ち切られることが提案された。
加えて、現行制度の下で導入されている小規模生産者(新乗用車販売台数が1,000〜1万台または小型商用車の新車販売台数が1,000~2.2万台のメーカー)への適用除外措置もまた、全メーカーが排出削減に貢献する必要があるとして2030年に廃止することが提案された。
なお、同見直し提案を巡っては、欧州委員会内部でも、100%削減目標年を2040年に遅らせるべきとの立場を取る閣僚もいた中で、2035年が目標年として提案された背景がある。また、自動車業界からは、高効率の内燃機関、ハイブリッド車、EV、燃料電池車など、全選択肢が気候中立への移行において役割を果たす必要がある、と従来型の内燃エンジン車の2035年以降の禁止につながる今回の基準引き上げ提案に反対の意見が出ている。
今後、欧州委員会提案に基づき、欧州議会およびEU理事会による共同立法手続きが進められていくこととなるが、業界からの圧力や加盟国間の対立により基準値の引き下げや目標年の後ろ倒しが検討される可能性は残っている。
【参考URL】
欧州委員会プレスリリース(Fit for 55パッケージ)
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_21_3541
欧州委員会見直し案
https://ec.europa.eu/info/files/amendment-regulation-setting-co2-emission-standards-cars-and-vans_en