ドイツのメルケル連邦首相は2019年11月4日、連立与党、連邦政府の代表者、特定の連邦州の首相、さらに自動車業界、従業員、ドイツ国家プラットフォーム 未来のモビリティ(NPM)の代表者を招き、「第二回 モビリティ協調行動(Konzertierten Aktion Mobilität)会議」を開催した(注:第一回会議は2019年6月24日開催。なお、本会議は通称「自動車サミット(Autogipfel)」と呼ばれている)。
この日の会議では、「より気候にやさしいパワートレインやデジタルモビリティに向かうテクノロジー変革の機会を十分に活用して、ドイツはこの先もイノベーション、付加価値、そして雇用の面で、世界をリードする自動車生産拠点であり続けなければならない」との共通認識の下、以下の結論に至った(本件のプレスリリースは、文末の関連文書(1)を参照)。
- エレクトロモビリティ市場拡大
- 連邦政府は、業界の協力、そして州政府と市町村の参加のもとで、向こう二年間に5万台の公共アクセス可能な充電ポイントを設置する。また、このための法的枠組みを速やかに整備する。
- 自動車業界は、2022年までに15,000台の公共充電ポイントを設置する。また本日、エネルギー業界もその取り組みの強化を発表し、年内には担当大臣との会談も予定されている。なお、充電ポイントの設置場所は、連邦政府と調整の上で定められる。
- 連邦政府は11月中に、電動車を対象とする購入奨励金=環境ボーナス(Umweltbonus)の支給期間を延長し、支給額を大幅に引き上げる。車両販売価格(税別)4万ユーロ(約480万円)以下の車両では50%、そして4万ユーロ以上6万5000ユーロ(約780万円)以下の車両では25%アップ。これによって、約65万~70万台の電動車普及を推し進める。なお、このための費用はこれまで通り連邦政府と業界が折半する。さらに政府は、新古車(ただし、社有車としての一次取得時、あるいは一次取得者の社用車として、国の補助金を受け取ったことのある車両は除く)の二次販売に際しての、簡便なボーナス支給方法を検討中である。
報告者注:
- 今のところ、環境ボーナスの支給は2020年末までとなっている(過去の関連トピック(2)参照)。一部では、これが2025年末まで延長される可能性があると見られている。
- 現行の環境ボーナス制度では、純粋な電気自動車(EV)の購入者に4000ユーロ(約48万円)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)の購入者には3000ユーロ(約36万円)のボーナスが支給されている。
- 上記プレスリリースでは、新しい環境ボーナスの適用開始時期は明らかにされていない。しかし、連邦政府が同じく11月4日に発行した、フォルクスワーゲンの独ツヴィッカウ工場における新型EVモデル「3」量産開始に関する別のプレスリリース(文末の関連文書(2))の中に、セレモニーに出席したメルケル首相の以下の言葉が引用されている。「連邦政府は、環境ボーナスを2020年末まで延長するほか、新しいVW「ID.3」などの小型モデルを対象に、2021年から支給額を引き上げることを計画している」。参考までだが、「ID.3」の車両販売価格は3万ユーロ弱~4万ユーロ。
- テクノロジーの多様性への対応-水素に注目
- 連邦政府は現在、包括的な水素戦略の策定を準備中である。
- 自動運転とコネクテッドモビリティ
- 同領域でドイツを先駆者とすべく、イノベーションを促進するための法的及び技術的な枠組み条件を速やかに整備する。また連邦政府は、自動運転の実用化に向けた政策パッケージの採択を3月に予定している。
- 未来のモビリティの基礎を成すのは、データとデータ交換である。モビリティプロバイダー(民間/公企業)は、2021年末までに包括的なモビリティデータネットワークを共同で構築し、これをモビリティ改革に最大限に活用したいと考えている。
- 改革過程における従業員と中小企業のサポート
- モビリティ改革の要は資格付与や継続教育である。
- このため、今年初めに資格取得機会法(Qualifizierungschancengesetz)が施行され、連邦雇用エージェンシー(BA)が同法の下で、構造変化やデジタル化の影響を受ける従業員の継続許育を促進する。なお、連邦政府は、資格取得機会法と操業短縮手当(Kurzarbeitergeld)の法的手段を修正あるいは調整する必要があるかどうかを検討する。
- 特に多くの影響を受けるクラスター(集団)では、変革に備えた十分な準備が必要である。このためには、当事者や州政府を交えた系統的な対話を進めなければならない。
- ソーシャルパートナー(雇用者、被雇用者、労働組合、政府等)は、新しい資格取得や業務内容に向けた今後の契約について交渉する。
関連文書
- 第二回 モビリティ協調行動会議の結論に関する、ドイツ連邦政府報道情報局(BPA)2019年11月4日発行プレスリリース(ドイツ語)
- VWの新型EVモデル「3」量産開始に関する、ドイツ連邦政府2019年11月4日発行プレスリリース(ドイツ語)
https://www.bundesregierung.de/breg-de/aktuelles/merkel-bei-vw-in-zwickau-1688270
【過去の関連トピック】
- EnviX海外エコカー政策モニタリング2019年7月9日「ドイツ連邦政府と自動車業界、『充電インフラ基本計画』策定で合意」
- EnviX海外エコカー政策モニタリング2019年6月11日 「ドイツ政府のEV購入奨励金「環境ボーナス」支給期間、2020年末まで延長――支給額は現行のまま」