米NREL、輸送の脱炭素化を促進する戦略を発表、ネットゼロへの道を切り開く

2021年2月22日、米国国立再生可能エネルギー研究所(NREL)は、ネットゼロエミッション(実質排出ゼロ)への道を切り開くため、交通機関を徹底的に脱炭素化する包括的なビジョンを発表した。これは、業界関係者、地域社会、政府機関、アーリーアダプター(初期採用層)が気候変動に関する目標を達成することができる分野横断的な研究とエンジニアリングに根ざした戦略である。乗用車から商用トラック、航空機、船舶、鉄道、モビリティシステムに至るまで、持続可能で回復力があり公平な気候の未来を確保することが目標。米国では、運輸部門が温室効果ガス(GHG)の最大の排出源であり、炭素排出量全体の約28%を占める。地球温暖化を摂氏2度(華氏4度)に抑えるためには、2050年までにGHG排出量を50〜85%削減しなければならないとされている。

 

【NRELの戦略】

NRELが推進する脱炭素化を目指すビジョンは、①ホールシステム・アプローチ、②第一線の専門家によるサポート、で構成されており、主な内容は以下のとおりである。

① ホールシステム・アプローチ

交通機関の脱炭素化に向けたNRELの科学主導によるアプローチは、同研究所の数十年にわたるクリーンエネルギー研究を活用したもので、21世紀のモビリティの状況が大きく変化している中での導入となった。在宅勤務が普及して道路を走る通勤者が減った一方で、電子商取引の増加により従来の貨物輸送システムへの要求が高まり、米国の人口は増加と高齢化の一途をたどっている。そのため、新しい技術、新しい燃料、新しいビジネスモデルが登場し、『普通』の再評価が迫られているという現状がある。

NRELのビジョンでは、このような変化に適応し排出量削減の要請に応えるためには、個々の技術を超えた研究の考え方が必要としており、特に、次のような重要な研究やエンジニアリングの優先事項を進めるための科学的な基礎知識を提供する多面的な戦略が必須である。

 -車両技術イノベーションの加速:車両の電動化(バッテリーや燃料電池)、コネクティビティ、自動化など

-輸送効率の向上:小型・中型・大型自動車、鉄道、航空、船舶の各分野を超えた排出物の削減と輸送の脱炭素化

再生可能な電子を将来的に最大限に利用:再生可能な電子を水素、液体燃料、化学物質(長期貯蔵)としての貯蔵を含むタイムシフトおよびセクターシフトによる

交通機関と建物、送電網、自然エネルギーとの最適な統合:システム全体の利益を実現する

② 第一線の専門家によるサポート

長年、交通機関の脱炭素化研究をリードしてきたNRELは、一流の科学者と最先端の施設を備え、さまざまな角度から新しい技術やトレンドを革新する準備を整えている。

NRELは、バイオエネルギーと同様に、水素を炭素排出から切り離された輸送システムの戦略の中心に据えている。現在、水素を輸送用燃料として使用しているのは、カリフォルニア州、ハワイ州、東海岸の一部に限られているが、NRELの専門家は、エネルギーを貯蔵し、大型トラック、鉄道、海上貨物に必要な排出ガスゼロの影響力を与えるために、水素が国中でますます重要な役割を果たすと考えている。

NRELがこれまで収めてきた成功は、計算科学、水素電池・燃料電池、モビリティ科学、都市・行動科学、エネルギーシステム統合、バイオエネルギーなどの分野にまたがる統合的な研究ネットワークによって支えられている。例えば、電気自動車のバッテリー性能の向上や、性能向上と排出量削減を両立させるバイオ燃料の開発など、車両レベルの課題を専門とする専門家がいれば、システムレベルの重要な問題を抱える技術を分析する研究者や、人間を中心としたアプローチで多様性やモビリティの公平性の課題に取り組む科学者もいる。

NRELでは、新技術の市場投入を加速させる技術的な障壁を取り除くため、クリーンなエネルギーソリューションの開発と展開に情熱を持った600人の世界的な科学者、エンジニア、アナリストで構成された脱炭素モビリティチームが活動している。

気候変動との闘いにおいて、NRELの学術研究チームは、細かな部分とシステム全体の両方に配慮した戦略を推進しており、大幅な炭素削減と交通エコシステムの変革に不可欠な存在となっている。

 

【参考URL】

Lighting the Path to Net Zero: NREL’s Strategy Drives Deep Transportation Decarbonization

https://www.nrel.gov/news/program/2021/lighting-the-path-to-net-zero-nrels-research-strategy-drives-deep-transportation-decarbonization.html