スペイン治安警察、運送会社によるディーゼルトラック排ガス制御システム操作を摘発

2019年3月28日のEurActivの報道によると、スペインの治安警察グラルディア・シビル(Guardia Civil)は、路上取締りをきっかけに、ある運送会社(本社:マドリッド)の所有トラック30台に、排ガス制御システムを操作する「エミュレータ(emulators)」が搭載されていることを摘発した。

捜査当局は4人の関係者を逮捕し、さらに本件に関わるネットワークがフランスや英国にも及んでいると見て、欧州刑事警察機構(Europol)の捜査協力を要請した。

 

ディーゼルトラックに搭載されている触媒還元システムでは、窒素酸化物(NOx)をはじめとする有害ガスを分解するための添加剤(報告者注:いわゆるAdBlue)を補給する必要がある。しかし、エミュレータを取付けると、車載エレクトロニクスに触媒還元システムが正しく動作していると誤認させることができるので、運送業者はこの添加剤を補給しなくて済む。スペイン捜査当局によると、運送業者はこの方法で一年間にトラック一台あたり約700ユーロ(約8万9000円)を節約できる。

一方、その間、路上では有害ガスが際限なく排出されることになる。なお、エミュレータは安価(報告者注:一部の報道によると80ユーロ前後)で購入でき、YouTube上には、その取付け方法を解説する動画さえ存在している。

 

持続可能な交通を主題とする欧州の大手NGOであるTransport & Environmentは、本件に関するEurActivの取材に応え、「本事件は、個別の(他との関連性を持たない)ケースではありません。英国及びドイツでも、数百台のトラックに関わる重要な捜査が実施されています」と話している。

また、同NGOでトラック部門を専門とするStef Cornelis氏は、「道路交通におけるエミッションという観点からは、本事件の規模はディーゼルゲート(2015年に発覚したドイツのフォルクスワーゲンによる排ガス不正事件)よりも大きくなる可能性があります。そしてその広がりは、ディーゼルトラック用排ガス制御システムが抱える脆弱性が限度を超えていることを示しています」と指摘する。

 

ディーゼルゲートが自動車メーカー主導の法律違反であったのに対し、今回の事件は自動車所有者による法律違反である。折しも本報道と同日の3月28日、欧州議会は、ディーゼルゲート発覚後3年半が経過した今なお、その大部分が未解決のままであることを懸念し、路上を走行し続けている対象車両をリコールまたは回収することをEU加盟国に強く促す内容の決議(Resolution、拘束力はなし)を可決した。

 

関連動向

トラックのエミュレータ取付けについては、ドイツの公共放送局であるZDF(Zweites Deutsches Fernsehen、第二ドイツテレビ)も2019年2月21日に『クリーンなトラックの嘘(Die Lüge vom sauberen LKW)』と題するドキュメンタリー番組を放映している。同番組(約30分、ドイツ語)は、2019年10月24日まで以下のZDFウェブサイトで公開されている。

https://www.zdf.de/dokumentation/zdfzoom/zdfzoom-die-luege-vom-sauberen-lkw-100.html