米運輸省国家道路交通安全局(NHTSA)と環境保護庁(EPA)は2020年3月31日、「2021~2026年式乗用車および小型トラックのより安全で無理なく買え、燃費のよい(SAFE)自動車規則」(以下、2021~2026年式車のSAFE自動車規則、または単にSAFE自動車規則)を最終規則として正式決定し、その内容を公表した。このSAFE自動車規則は本稿執筆時(2020年4月7日)の段階ではまだ官報掲載による正式公布はなされていない。この規則は官報掲載による公布の60日後に発効することになっている。
2021~2026年式車のSAFE自動車規則は、軽量車を対象としたこれまでの二酸化炭素排出基準と燃費基準を改正するもので、この規則によりEPAは、2021年式以降の軽量車の二酸化炭素排出基準を改正している。また、NHTSAは、この規則によって2021年式軽量車のメーカー別平均燃費(CAFE)基準を改正するとともに、2022~2026年式軽量車のCAFE基準を新たに定めている。
NHTSAとEPAは、このSAFE自動車規則はエネルギーの自給と二酸化炭素排出削減に向けた国の取組の進捗を継続させるものであると同時に、市場の実態と、多様なニーズを満たす自動車を購入することへの消費者の関心をじゅうぶんにわきまえたものになっているとしている。
経緯:
2018年4月、EPAはすでに決定していた2022~2025年式軽量車の温室効果ガス(GHG)排出基準の中間評価を撤回するとともに、この基準が古い情報にもとづくものでいまや不適切であり、より新しい情報にもとづいて緩和する方向で見直すべきであるとする新たな中間評価を決定した。撤回された中間評価はオバマ政権最末期の2017年1月12日に最終決定されたもので、2022~2025年式軽量車のGHG排出基準の変更は必要ないという内容だった。政権交代後の同年3月、EPAはこの最終決定を覆して中間評価を見直すことを公表し、それに向けた検討を進め、基準緩和に向けた新たな中間評価の決定に至ったものである。
同じ時期、EPAはまた、NHTSAと共同で、2022~2025年式軽量車のCAFE基準を緩和する方向でも作業を進めていた。
こうしたことをうけて、NHTSAとEPAは新たなSAFE自動車規則の案を2018年8月に公表し、意見募集をおこなった。今回の最終規則はこれを踏まえてのものである。この規則案でNHTSAとEPAは、2022~2026年式軽量車両のCAFE基準を新たに設定するとともに2021年式車の同基準を改正すること、および2021~2025年式車の二酸化炭素排出基準を改正するとともに2026年式車の同基準を新たに設定することを提案し、それらについてさまざまな選択肢を示した。
また、NHTSAとEPAは2019年9月、「より安全で無理なく買え、燃費のよい(SAFE)自動車規則パート1:1つの国家プログラム」と題する最終規則を公布した。この最終規則は、NHTSAとEPAが2018年8月に公表したSAFE自動車規則案の最終規則化に向けて、これに反対するカリフォルニア州などの、連邦よりも厳しい燃費・二酸化炭素排出基準を維持しようという動きを制し、プリエンプション(州の法規に対する連邦法規の優先)の発動とそれら州へのウェイバー(プリエンプションの適用除外)の取消しを告知するものである。
こうしたステップを踏んだ上で、NHTSAとEPAはSAFE自動車規則を最終規則として決定するに至ったものである。
SAFE自動車規則のおもな内容:
SAFE自動車規則の内容のうち、おもなものを以下に示す。
- 毎年5%の厳格化:2026年式車まで、CAFE基準と二酸化炭素排出基準を、1年ごとに1.5%ずつ厳格化していく。2018年8月のSAFE自動車規則案では、NHTSAとEPAは望ましい選択肢として、2020年式車の基準を2026年式までそのまま適用することを提案していた。だが、これは最終規則の段階でより厳格な方向へ修正されたことになる。
- 2030年式車では1マイル当たりの二酸化炭素排出基準が業界平均201グラムに:この最終規則の定める二酸化炭素排出基準を2030年式車に適用した場合、二酸化炭素排出量は業界平均で1マイル当たり201グラム以下となることが求められる。
- 2030年式車では燃費基準が業界平均で1ガロン当たり5マイルに:この最終規則の定める燃費基準を2030年式車に適用した場合、要求される燃費は業界平均で1ガロン当たり40.5マイルとなる。ちなみに、2012年の燃費基準では、2025年式車に求められる燃費は1ガロン当たり46.7マイルだった。
- 大気浄化法による汚染物質排出基準の遵守について:この最終規則のもとでも、各年式の新車は大気浄化法にもとづく厳しい汚染物質排出基準をひきつづき遵守していく必要がある。
コストと環境面での効果:
NHTSAとEPAは、このSAFE自動車規則を遵守するのに必要な技術コストを、2029年式車までの全耐用期間で860億ドル(約9兆4000億円)ないし1260億ドル(約13兆7000億円)と試算している。
また、消費者の新車購入コストについては、2012年の最終規則による基準がそのまま引き継がれていた場合と比べて平均で977ドル(約10万7000円)ないし1083ドル(約11万8200円)安くなると試算している。
今回のSAFE自動車規則がもたらす環境面での効果については、NHTSAとEPAは2012年の最終規則による基準がそのまま引き継がれていた場合と比べて後退せざるを得ないと予測している。すなわち、燃料の消費量は19億ないし20億バレル増加し、二酸化炭素排出量も8億6700万ないし9億2300万トン増加することが予想される。
なお、この最終規則の官報掲載前のテキストは以下のURLで読むことができる。
https://www.epa.gov/sites/production/files/2020-03/documents/final-fr-safe-preamble-033020.pdf
また、この件に関するNHTSAの報道発表は以下のURLで読むことができる。
https://www.nhtsa.gov/press-releases/safe-final-rule
【過去の関連トピック】
EnviX海外環境法規制モニタリング2018年8月号「米EPAとNHTSA、2021~2026年式軽量車両の新たな燃費・温室効果ガス排出基準案を公表」
同2019年9月号「米EPAとNHTSA、SAFE自動車規則案の最終規則化に向けて燃費・GHG排出基準を連邦に一本化」
(2020.04.07 tt)